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星の王子さま(第18章〜第23章)
ANTOINE DE SAINT-EXUPÉRY
Le Petit Prince
星の王子さま
サン=テグジュペリ作
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<第18章>

小さな王子さまは砂漠を歩き回りましたが、わずか一輪の花に出会っただけでした。花びらを三枚ほど持っているだけの、まったくなんということのない花でした...

「こんにちは」
小さな王子さまは言いました。

「こんにちは」
その花は言いました。

「人間はどこにいますか?」
小さな王子さまは丁寧に尋ねました。

あるとき、その花はキャラバン隊が通過するのを目撃していました。

「人間?6人か7人くらいはいたと思うわよ。何年か前に見かけたもの。でも、どこで彼らに出会えるかは分からないわ。彼らは風に吹かれて移動するんだから。根っこがないって本当に困るわよね」

「さようなら」
小さな王子さまは言いました。

「さようなら」
その花は言いました。


<第19章>

小さな王子さまは高い山に登りました。彼が知っていた山といえば、自分のひざまで届くくらいの3つの火山だけでした。そして、死火山は腰掛けとして利用していました。それゆえに彼は思いました。

「こんなに高い山の上からだと、惑星全体やすべての人間たちを一望できるだろうな...」

しかし、鋭くとがった岩峰の他にはなにも見えませんでした。

「こんにちは」
彼は念のために言ってみました。

「こんにちは...こんにちは...こんにちは...」
こだまが返ってきました。

「あなたはだれ?」
小さな王子さまは言いました。

「あなたはだれ...あなたはだれ...あなたはだれ...」
こだまが返ってきました。

「僕の友だちになって下さい。ひとりぼっちなんです」
彼は言いました。

「ひとりぼっちなんです...ひとりぼっちなんです...ひとりぼっちなんです...」
こだまが返ってきました。

「なんて奇妙な惑星なんだろう!からからに乾いていて、やたらととんがっていて、塩だらけだなんて。人間たちは想像力が足りないんじゃないかな。言われたことを繰り返すばかりなんて...僕の惑星には花が咲いていたというのに。いつも彼女が一番に話し始めていたな...」
小さな王子さまはそんなことを考えました。


<第20章>

それでも、小さな王子さまは長いあいだをかけて砂や岩や雪を歩いて通り抜け、とうとう一本の道を見つけました。道というものはすべて人間たちの住んでいるところへと続いているのです。

「こんにちは」
彼は言いました。

そこにはバラの花々が咲きほこっている庭がありました。

「こんにちは」
バラたちは言いました。

小さな王子さまはバラの花々を眺めました。それらは彼の花にとてもよく似ていたのです。

「あなたはだれですか?」
びっくりした彼はバラに向かって尋ねました。

「わたしたちはバラよ」
バラは言いました。

「あぁ!」
小さな王子さまは言いました...

そして、彼は自分がとても不幸な気持ちになっていることに気づきました。彼の花は、自分は宇宙に1本しか存在していない種類だと彼に話していたのでした。そして、たったひとつの庭にとてもよく似たバラが5千本もあったのでした!

「彼女がもしこれを見てしまったら、とても傷ついてしまうかもしれない...」
彼は思いました。
「物笑いの種になるのを避けるために彼女は大きな咳払いをして、そして死んだふりをするかもしれない。それから、僕は彼女を看護するふりをしなければならないだろう。というのは、もしそうしなければ、僕にも同じように気まずい思いをさせようとして、彼女は本当に死んでしまうかもしれない...」

それから、彼はさらに思いました。

「僕はたったひとつだけの花を持っていると思い込んでいたけれど、僕が持っていたのはごくありふれたバラにすぎなかった。そんなバラと膝まで届く火山が3つ、そのうちのひとつはずっと死火山のまま、これでは僕は立派な王子さまにはなれないだろう...」

そして、彼は草の上に横たわって泣きました。


<第21章>

そうしていると、キツネが現れました。

「こんにちは」
キツネは言いました。

「こんにちは」
小さな王子さまは丁寧に答えましたが、振り返ってもなにも見えませんでした。

「おいらはここだよ」
その声は言いました。
「リンゴの木の下だよ」

「君はだれなの?とてもきれいだけど...」
小さな王子さまは言いました。

「おいらはキツネさ」
キツネは言いました。

「こっちに来て僕と遊んでよ。僕はとても悲しいんだ...」
小さな王子さまはキツネに提案しました。

「おいらは君とは遊べないよ。親密になっていないからね」
キツネは言いました。

「あぁ!ごめんなさい」
小さな王子さまは言いました。

しかし、小さな王子さまは少し考えた後で言い加えました。

「『親密になる』ってどういう意味なの?」

「君はここの人間じゃないんだね。なにを探しているの?」
キツネは言いました。

「僕は人間たちを探しているんだ」
小さな王子さまは言いました。
「『親密になる』ってどういう意味なの?」

「人間たちは鉄砲を持っていて、狩りをするんだ。とても厄介なんだよ!彼らはニワトリも育てているんだ。彼らが関心を持っているのはそれだけさ。君はニワトリを探しているのかい?」
キツネは言いました。

「ちがうよ。僕は友だちを探しているんだ。『親密になる』ってどういう意味なの?」
小さな王子さまは言いました。

「もう忘れられてしまったことだよ。それは『絆を創り出す...』っていう意味なんだ」

「絆を創り出す?」

「そのとおりさ。おいらにとっては、君はまだ大勢いる少年のうちのひとりにすぎないんだ。だから、おいらは君を必要としてはいないんだよ。同じように、君もおいらを必要としてはいない。君にとって、おいらは数多くいるキツネのうちの一匹にすぎないからね。でも、もし君がおいらと親密になれば、おいらたちはお互いを必要とするようになるんだ。君はおいらにとって世界にひとつだけの存在になるだろうし、おいらも君にとって世界にひとつだけの存在になるだろうよ...」
キツネは言いました。

「分かりかけてきたよ。ある花があったんだけど...彼女は僕と親密になっていたんだと思うよ...」
小さな王子さまは言いました。

「そうかもしれないね。地球の上では、なんだって起こりうるからね...」
キツネは言いました。

「それは地球の上でのことじゃないんだ」
小さな王子さまは言いました。

キツネはとても不思議そうな顔をしました。

「どこか別の惑星ってこと?」
「そう」
「その惑星には狩りをする人はいるの?」
「いないよ」
「そう、それは興味深いな!じゃあ、ニワトリはいる?」
「いないよ」
「良いことばかりじゃないんだね」
キツネはため息をつきました。

しかし、キツネは自分の考えに再び話を戻しました。

「おいらの生活は単調なんだ。おいらはニワトリを追いかける、人間たちはおいらを追いかける。ニワトリはどれも同じだし、人間だってどれも同じだよ。だから、おいらは少しうんざりしているんだ。でも、もし君がおいらと親密になってくれたら、おいらの生活は明るくて楽しいものになるよ。おいらは他の誰とも違う足音を区別することができるようになるだろうね。おいらは他の誰かの足音が聞こえると地面の下に戻るんだ。君の足音が聞こえると、おいらは穴ぐらから外へと出てくる。音楽みたいだね。それから見てよ!あそこに小麦畑が見えるでしょ?おいらはパンは食べないんだ。小麦はおいらには役に立たないんだよ。おいらは小麦畑になんの思い出もないんだ。これは悲しいことだよ!でも、君は金色の髪の毛をしているね。君がおいらと親密になってくれたときには、小麦畑だって素晴らしく感じられるはずだよ。金色の小麦がおいらに君のことを思い出させるからね。そして、おいらは小麦のなかで聞く風音が好きになるだろうよ...」

キツネは黙り込んで、長いあいだ小さな王子さまを見ていました。

「もしよかったら...おいらと親密になっておくれよ!」
彼は言いました。

「そうしたいけど、僕にはあまり時間がないんだ。僕は友だちを見つけなくてはならないし、知らなくてはならないこともたくさんあるんだよ」
小さな王子さまは答えました。

「親密になったことしか知ることはできないよ。人間たちには知るための時間なんてもう全然ないんだ。彼らはできあがったものをお店で買うんだから。でも、友だちを売っているお店なんてないから、人間たちはもう友だちを持てないんだよ。もし友だちが欲しいのなら、おいらと親密になっておくれよ!」
キツネは言いました。

「なにをすればいいの?」
小さな王子さまは言いました。

「根気強くあり続けることが必要だね。まずは草のなかで、君はおいらから少し離れて座る。こんな風にね。おいらは君をチラリと眺める、そして君はなにも喋らない。言葉は誤解のもとだよ。でも、君は毎日少しずつ近くに座るようにする...」
キツネは答えました。

翌日、小さな王子さまは再びそこに戻りました。

「同じ時刻に戻って来ることのほうが大切なんだよ。例えば、もし君が午後の4時に来るなら、おいらは3時から幸せになっていられるんだよ。時間が経つにつれて、おいらはどんどん幸せになってくる。4時になったときには、おいらは動揺して心配になるんだ。おいらは幸せの価値を発見することができるだろうね。でも、もし君がいつ来るか分からないようだとしたら、何時に心の準備をすればよいか分からない...習慣にしなくてはいけないんだよ」
キツネは言いました。

「習慣ってなんなの?」
小さな王子さまは言いました。

「それもまた忘れられてしまったことだよ。習慣によって、ある1日が別の1日とは違ったものになるんだ。ある1時間も別の1時間とは違ったものになる。例えば、狩人にも習慣があるんだ。やつらは木曜日にはいつも村の娘たちと一緒に踊るんだよ。だから、木曜日はいつも素晴らしい日なのさ!おいらはブドウ畑まで散歩に行くんだよ。もし狩人がいつダンスをするか分からないとしたら、毎日がすべて同じようになってしまう。そして、おいらはちっともバカンスに行けなくなってしまうだろうよ」
キツネは言いました。

そのようなわけで、小さな王子さまはキツネと親密になりました。そして、出発が近づいたときのことでした。

「あぁ!おいらは泣いてしまいそうだよ」
キツネは言いました...

「君のせいだよ。僕は君を悲しませるつもりはなかったんだ。でも、君が親密になってくれって望むから...」
小さな王子さまは言いました。

「そうだね」
キツネは言いました。

「でも、君は泣き出しそうじゃないか!」
小さな王子さまは言いました。

「そのとおりさ」
キツネは言いました。

「それなら君にとって良いことは全然なかったね!」

「良いことはあったよ。小麦の色のおかげでね」
キツネは言いました。

それから、彼は付け加えました。

「バラたちにもう一度会いに行ってきなよ。君の花が世界にひとつだけの存在だって分かるよ。君がここに別れの挨拶をしに戻って来たとき、おいらは君に秘密の贈り物をするよ」

小さな王子さまはバラたちに再び会いに行きました。

「君たちは僕のバラとは全然似ていないよ。まだ君たちはただのバラだもの。だれも君たちと親密になっていないし、君たちだってだれとも親密になっていない。君たちは僕と知り合う以前のキツネみたいなものだよ。以前は大勢いるキツネの一匹にすぎなかったけど、僕と彼とは友だちになったんだ。だから、今では彼は世界にひとつだけの存在なんだよ」
小さな王子さまはバラたちに言いました。

バラたちはとても困惑していました。

「君たちは美しいけど、空っぽだよ。だれも君たちのために死なないんだ。もちろん僕のバラだって、普通に通り過ぎる人にしてみれば君たちと似ていると思うだろう。でも、君たちすべてよりも彼女ただひとりのほうがもっと大切なんだ。なぜなら、彼女だけが僕が水をあげたバラだからだよ。そして、僕がガラスの被いをかぶせてあげて、ついたてで守ってあげて、毛虫を殺してあげた(チョウチョになった2、3匹を除いて)バラだからだよ。文句や自慢、ときにはだんまりだって聞いてあげたバラだからだよ。なぜなら、僕のバラだからだよ」
小さな王子さまは、さらにバラたちに言いました。

そして、彼はキツネのところへと戻りました。

「さようなら...」
彼は言いました。

「さようなら」
キツネは言いました。
「これがおいらの秘密だよ。とても単純なんだ。心でなくちゃ見えないものがあるんだよ。大事なものは目では見えないんだ」

「大事なものは目では見えない」
小さな王子さまは、忘れてしまわないように繰り返しました。

「君がバラのために費やした時間だけ、君のバラは大切になるんだよ」

「僕がバラのために費やした時間だけ...」
小さな王子さまは、忘れてしまわないように繰り返しました。

「人間たちはこのことを忘れてしまったんだ。でも君は忘れちゃいけないよ。君は自分が飼いならしたものに対して、いつだって責任を負わなくちゃいけないんだ。君は、君のバラに責任を負っているんだ...」
キツネは言いました。

「僕は、僕のバラに責任を負っている...」
小さな王子さまは、忘れてしまわないように繰り返しました。


<第22章>

「こんにちは」
小さな王子さまは言いました。

「こんにちは」
転轍手は言いました。

「ここでなにをしているの?」
小さな王子さまは言いました。

「乗客を千人ずつに振り分けているんだよ。彼らを乗せて行く列車を、あるときは右方向へ、またあるときは左方向へと送り出しているんだ。」
転轍手は言いました。

すると、照明を照らした特急列車が雷鳴のような音をとどろかせながら、転轍機のある小屋を揺らして行きました。

「とても急いでいるみたいだね。なにか探しているのかな?」
小さな王子さまは言いました。

「機関車の運転手はそんなこと知らないんだよ」
転轍手は言いました。

すると、2台目の特急列車が反対方向からうなりをあげてやって来ました。

「もう戻ってきたの?」
小さな王子さまは尋ねました...

「同じ車両じゃないよ。すれ違ったんだよ」
転轍手は言いました。

「自分のいる場所に満足できなかったのかな?」
「自分のいる場所に満足できる人なんていないさ」
転轍手は言いました。

すると、3台目の特急列車が雷鳴のような音をとどろかせながらやって来ました。

「彼らは最初に通過した列車の乗客を追いかけているの?」
小さな王子さまは尋ねました。

「彼らはなにも追いかけていないさ。彼らは列車のなかで寝ているか、それともあくびをしているかだよ。子供たちだけはガラス窓に鼻を押し付けているのさ」
転轍手は言いました。

「子供たちだけが自分がなにを探しているのか知っているんだよ。子供たちはぼろきれでできた人形に時間を費やしていて、だからその人形はとても重要なものになるんだよ。もしだれかが人形を取り上げたら、子供たちは泣いてしまうだろう...」
小さな王子さまは言いました。

「子供たちは運がいいのさ」
転轍手は言いました。


<第23章>

「こんにちは」
小さな王子さまは言いました。

「こんにちは」
商人は言いました。

そこにいたのは、のどの渇きを完全に和らげる薬を売っている商人でした。その薬を週に1回飲めば、もはや水を飲みたいという欲求を感じなくなるのです。

「どうしてそんな薬を売っているの?」
小さな王子さまは言いました。

「時間をとても節約できるんです。専門家が計算したんですよ。1週間で53分の節約になりますよ」
商人は言いました。

「それで、その53分でなにをするの?」
「なんだって好きなことができますけど...」

「もし僕に53分の時間があったとしたら、噴水のところへゆっくりと歩いて行くんだけどな...」
小さな王子さまはそんなことを考えました。
by nakabiblio | 2007-06-02 18:42 | サン=テグジュペリ


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