ANTOINE DE SAINT-EXUPÉRY
Le Petit Prince 星の王子さま サン=テグジュペリ作 -------------------------------------------------- <第12章> 続いて訪れた惑星にはひとりの酒飲みが住んでいました。今回の訪問はとても短いものでしたが、それでも小さな王子さまを大いに憂鬱にさせてしまいました。 「そこでなにをしているの?」 小さな王子さまは酒飲みに言いました。酒飲みの目の前には空の瓶や中身の入った瓶が並べられており、彼はそれらを静かに眺めていました。 「おれは飲んでいるんだ」 酒飲みは悲痛な様子で答えました。 「どうして飲んでいるの?」 小さな王子さまは彼に尋ねました。 「忘れるためさ」 酒飲みは答えました。 「なにを忘れるため?」 既に彼をかわいそうに思っていた小さな王子さまは尋ねました。 「恥ずかしいことを忘れるためさ」 酒飲みはうなだれながら告白しました。 「恥ずかしいってなんなの?」 彼を救ってあげたいと思っていた小さな王子さまは尋ねました。 「酒を飲むことが恥ずかしいのさ!」 そう言い終えると、酒飲みは再び沈黙のなかへ閉じこもってしまいました。 小さな王子さまは途方に暮れてしまい、その惑星を立ち去りました。 「大人って、どう考えても本当にとても変な人たちだ」 小さな王子さまは旅を続けながらそんなことを思いました。 <第13章> 4番目に訪れたのは実業家が住んでいる惑星でした。この実業家はとても忙しくて、小さな王子さまがやって来ても顔すら上げないほどでした。 「こんにちは。タバコの火が消えていますよ」 小さな王子さまは彼に言いました。 「3足す2は5。5と7で12。12と3で15。こんにちは。15と7で22。22と6で28。タバコに火をつけるひまがないんだ。26と5で31。やれやれ!ということはこれで5億162万2731だな」 「なにが5億なの?」 「うん?おまえ、まだそこにいたのか?5億と...もう分からなくなった。仕事がたくさんあるんだ!おれは重要な人間なんだよ、無駄話を楽しんでいるひまはないんだ!2と5で7...」 「なにが5億なの?」 ひとたび疑問に思ったことは決してあきらめない小さな王子さまは繰り返しました。 実業家は顔を上げました。 「おれは54年前からこの惑星に住んでいて、過去に3回だけ調子を狂わされたことがある。1回目は22年前のことで、どこからとも知れず落ちてきたコガネムシに邪魔をされたんだ。そいつが恐ろしいほどの騒音をまき散らしたために、おれは1回の足し算で4度も間違いをしてしまったんだ。2回目は11年前のことで、突然リウマチが痛み出したんだ。運動が足りなかったんだな。歩くひまもなかったから。おれは重要な人間だからな。3回目は...おまえだ!つまり、おれが数えていたときだな、5億...」 「なにが5億なの?」 実業家は静かにして欲しかったのですが、その望みはまったくなさそうだということを理解しました。 「ときどき空に見えるあの小さなものを5億だな」 「ハエのこと?」 「ちがう、キラキラ輝いている小さなものだ」 「ミツバチ?」 「ちがう、なにもせずにただぼんやりとしている黄金色の小さなものだ。このおれは重要な人間なんだぞ!ぼんやりしているひまなんてないんだ」 「なんだ!星のこと?」 「そのとおり、星のことだ」 「5億もの星をどうするの?」 「5億162万2731だ。このおれは重要な人間だから、細かなところまで正確なんだ」 「それで、そんなにもの星をどうするの?」 「どうするかだって?」 「そう」 「なんにもしやしないさ。おれはそれらを所有しているんだ」 「星を所有しているの?」 「そうだ」 「でも、以前に僕はある王様に会ったよ。その王様は...」 「王様たちは所有しないんだ。彼らはその上に君臨するだけだ。まったく別のことだよ」 「じゃあ、あなたはなんのために星を所有しているの?」 「星を所有することでおれはお金持ちになれるんだ」 「お金持ちになってどうするの?」 「誰かが新しい星を見つけたら、それを購入するんだ」 「この人と酒飲みの考え方は少し似ているな」 小さな王子さまは心のなかで思いました。 しかし、彼はさらに質問をしました。 「どうすれば星を所有することができるの?」 「星は誰のものだ?」 実業家は気難しい調子で反論しました。 「知らないよ。誰のものでもないんじゃないかな」 「ならばおれのものだ。なぜなら、おれが最初に所有することを考えついたからだ」 「それだけ?」 「そのとおりだ。おまえが誰のものでもないダイヤモンドを見つけたら、それはおまえのものだ。おまえがなにかを最初に考えついたら、それで特許をとればいい。おまえのものになる。そして、おれが星を所有しているのは、おれより先に誰も星を所有するということを考えつかなかったからだ」 「それはそうだね。それで、あなたは星を所有してどうするの?」 小さな王子さまは言いました。 「おれは星を管理するんだ。星々を数えて、そしてまた数え直すんだ。難しいことだぞ。でも、おれは重要な人間だからな!」 実業家は言いました。 小さな王子さまはそれでもまだ満足していませんでした。 「僕はスカーフを所有しているけど、それを首に巻いて持ち歩くことができるよ。もしも僕が花を所有していれば、摘んで持ち運ぶことができるよ。でも、あなたは星を摘むことはできないよね!」 「そうだ。でも、おれは星々を銀行に預けておくことができるぞ」 「それはどういうこと?」 「というのはつまりだな、小さな紙の上におれが所有している星々の数字を書いておくんだ。それから、その紙を引き出しのなかに鍵をかけてしまっておくんだ」 「それですべて?」 「それですべてだ!」 「それは面白いな。とっても詩的だ。でも、そんなに重要なことではないな」 小さな王子さまは考えました。 小さな王子さまは、重要だと思うものについて、大人たちとは大いに違った考えを持っていました。 「僕は一輪の花を持っていて、毎日水やりをしていたよ。毎週すす払いをしていた火山を3つ持っている。死火山だって同じようにすす払いをしていたんだ。噴火しないなんて言い切れないからね。僕が火山や花を所有していたことで、それらの役に立っていたんだよ。でも、あなたは星の役には立っていないようだね...」 実業家は口を開こうとしましたが、なにも言葉が見つかりませんでした。そして、小さな王子さまはその惑星を離れました。 「大人って、どう考えてもまったく変な人たちだ」 小さな王子さまは旅を続けながらそんなことを思いました。 <第14章> 5番目に訪れたのはとても奇妙な惑星でした。その惑星はこれまでに訪れたどの惑星よりも小さく、街灯ひとつと点灯夫ひとりがちょうど収まるくらいの大きさしかありませんでした。宇宙のどこかにあって、家もなければ誰も住んでいない惑星の上で、街灯と点灯夫がいったいなんの役に立つのか、小さな王子さまには理解することができませんでした。しかし、それにもかかわらず彼は心のなかで思いました。 「おそらくこの男の人はどうにかしているに違いない。でも、王様やうぬぼれ屋や実業家や酒飲みたちのほうが彼よりももっとどうにかしている。彼が街灯に火を灯すときなんて、まるで新たな星や花が誕生しているかのようだ。彼が街灯の火を消すときなんて、まるで星や花が眠りにつくかのようだ。とても素敵な仕事だ。こんなにも素敵なのだから、本当に役に立つ仕事なんだ」 彼はその惑星に近づくと、点灯夫に向かって丁寧に挨拶をしました。 「こんにちは。あなたはどうして街灯の火を消したのですか?」 「それは決まりごとだからだよ。こんにちは」 街灯夫は答えました。 「決まりごとってなんなの?」 「街灯を消すっていうことさ。こんばんは」 そう言うと、街灯夫は再び街灯に火を灯しました。 「どうして街灯に火を灯したの?」 「決まりごとだからだよ」 街灯夫は答えました。 「僕には理解できないや」 小さな王子さまは言いました。 「理解する必要なんて全然ないよ。決まりごとは決まりごとなんだ。こんにちは」 そう言うと、街灯夫は街灯の火を消しました。 それから彼は赤いチェックのハンカチで額を拭きました。 「おいらは本当に大変な仕事をしているんだよ。むかしはこんな風じゃなかったんだけどね。おいらは朝になったら火を消して、夜になったら灯を灯すんだ。それ以外の日中は休むことができたし、夜中は眠ることができたんだけど...」 「その頃とは決まりごとが変わったの?」 「決まりごとは変わっていないよ」 点灯夫は言いました。 「そこが悲しいところさ。この惑星が毎年どんどん速く回転するようになってきているんだ。それなのに決まりごとは変わらないままなんだ!」 「それで?」 小さな王子さまは言いました。 「だから今では1分で1回転するんだよ。おかげでおいらは1秒だって休めやしないよ。毎分ごとに火を灯して消してをするんだ!」 「それは面白いね。君の惑星では1日が1分だなんて!」 「全然面白くないよ。おいらたちが一緒に話してもう1ヶ月が経ったんだよ」 「1ヶ月?」 「そう。30分で30日!こんばんは」 そう言うと、街灯夫は街灯に火を灯しました。 小さな王子さまはそれを眺めて、決まりごとにとても忠実だった街灯夫のことが好きになりました。彼はかつて椅子を移動させながら探していた夕日のことを思い出しました。そして、友だちを助けてあげたくなりました。 「ねぇ...もし君が知りたいなら、僕は君を休ませてあげる方法を教えてあげるよ...」 「おいらはいつだって休みたいと思っているよ」 街灯夫は言いました。 働き者だって、ときには怠け者になりたいこともあるのです。 小さな王子さまは続けて言いました。 「君の惑星はとても小さいから、3歩で1周することができるでしょ。だから、ゆっくり歩き続ければ太陽はずっと沈まないんじゃないかな。休みたいときには歩けばいいんだよ...そうすれば1日が好きなだけ長くなるでしょ」 「それはおいらには大して役に立たないね。おいらがなによりも好きなのは眠ることなんだ」 街灯夫は言いました。 「眠るなんて無理だよ」 小さな王子さまは言いました。 「そうだよね、無理だよね。こんにちは」 街灯夫は言いました。 そして、彼は街灯の火を消しました。 「彼は王様やうぬぼれ屋や酒飲みや実業家などの他の人たちから軽蔑されるかもしれない。でも、僕にとって滑稽だと思えなかったのはただ彼ひとりだ。それはたぶん彼が彼自身以外のなにかのために熱心になっているからだろうな」 小さな王子さまはさらに遠くへと旅を続けながらそんなことを思いました。 彼は後悔でため息をひとつつき、さらに思いました。 「彼だけがただひとり僕の友だちになれた人かもしれない。でも、彼の惑星は本当にあまりにも小さすぎるんだ。2人分の場所なんてないもの...」 小さな王子さまは思い切って告白できませんでしたが、彼が本当に後悔していたことというのは、あの惑星でなら24時間で1440回も夕日が見られるのに!ということだったのです。 <第15章> 6番目に訪れたのは前より10倍も大きな惑星でした。そこには分厚い書物を著しているひとりの老紳士が住んでいました。 「ほぉ!探検家がやって来たようじゃな!」 老紳士は小さな王子さまに気づき、大声で言いました。 小さな王子さまは机の上に座り、少しばかり息をつきました。彼は既にたくさんの旅を続けて来たのです! 「君はどこからやって来たのだね?」 老紳士は小さな王子さまに言いました。 「この大きな本はなんですか?あなたはここでなにをしているのですか?」 小さな王子さまは言いました。 「わしは地理学者じゃ」 老紳士は言いました。 「地理学者ってなんですか?」 「地理学者というのは、海や川や町や山や砂漠がどこにあるかを知っている学者のことじゃよ」 「それはとても面白いですね。つまり、ちゃんとした仕事だ!」 小さな王子さまは言いました。そして、彼は地理学者の住んでいる惑星で周囲をぐるっと見回しました。彼はかつてこれほどまでに大きな惑星を目にしたことはありませんでした。 「あなたの惑星はとても立派ですね。大きな海はありますか?」 「わしはそんなことは知らんよ」 地理学者は言いました。 「えっ!(小さな王子さまはがっかりしました)じゃあ山はありますか?」 「わしはそんなことは知らんよ」 地理学者は言いました。 「でも、あなたは地理学者なのでしょう!」 「そのとおりじゃ。しかし、わしは探検家ではない。わしは探検家がいなくて困り果てておるのじゃ。町や川や山や海、それから大洋や砂漠を報告するのは地理学者の仕事ではないのじゃ。地理学者というのはあまりにも重要な仕事だから、歩き回ることなどしないのじゃよ。書斎を離れることはないのじゃ。しかし、探検家どもを迎え入れることはあるぞ。話を聞いて、やつらが憶えておることをノートに書き取るのじゃ。そして、その話のなかにひとつでも興味深く感じられるものがあれば、地理学者はその探検家の人格について取り調べを行うのじゃ」 「どうしてそんなことをするのですか?」 「というのは、探検家がうそをついていたら、地理学の書物に破綻が生じてしまうからじゃよ。同じように大酒飲みの探検家もダメじゃ」 「それはどうしてですか?」 小さな王子さまは言いました。 「なぜかといえば、酒飲みどもには視界が二重に映るからじゃよ。だから、本当は山がひとつしかないのに、ふたつあると地理学者が書き取ってしまうかもしれん」 「僕はそんな悪い探検家になりそうな人を知っていますよ」 小さな王子さまは言いました。 「そうじゃろう。それゆえ、その探検家の人格が良さそうに思えたら、その発見についての調査を行うのじゃ」 「見に行くのですか?」 「いや、それではあまりにも厄介じゃ。そこで、探検家になにか証明になるようなものを提示するように要求するのじゃよ。例えば、大きな山を発見したということであれば、そこから大きな岩を持ち帰るように要求するのじゃ」 地理学者は突然、感情をあらわにしました。 「ところで君、君は遠くからやって来たのであろう!君は探検家じゃな!君の惑星のことをわしに詳しく話してくれるのであろうな!」 そして、地理学者はメモ帳を開いて、エンピツを削りました。まずは探検家の話をエンピツでメモ帳に書きつけるのです。探検家が証拠を示すのを待って、それからインクで書きつけます。 「それで?」 地理学者は質問をしました。 「あぁ!僕の惑星なら、そんなに面白くはないですよ。とても小さいんです。火山が三つあります。そのうちふたつは活火山で、後のひとつは死火山です。でも、噴火しないなんて言い切れません」 小さな王子さまは言いました。 「そうじゃな、言い切れん」 地理学者は言いました。 「僕の惑星には花も咲いています」 「花のことは書かんよ」 地理学者は言いました。 「どうしてですか?それが一番美しいのに!」 「というのはな、花ははかないからじゃよ」 「『はかない』ってどういう意味ですか?」 「地理学の書物というのは、あらゆる書物のなかで最も重要なものなのじゃよ。決して流行遅れになることがあってはならんのじゃ。山の場所が変わるというのはめったにあることではない。大洋の水が干上がってしまうというのもめったにあることではないのじゃ。わしら地理学者はいつの時代も変わらないことを書くのじゃよ」 地理学者は言いました。 「でも、死火山は目覚めてしまうかもしれませんよ」 小さな王子さまは話の途中で割って入りました。 「『はかない』ってどういう意味ですか?」 「火山が死火山か活火山かというのは、わしら地理学者にとっては同じことなのじゃよ。わしらが考慮するのは、それが山であるということじゃ。山は変化せんからの」 「でも、『はかない』ってどういう意味なのですか?」 ひとたび疑問に思ったことは決してあきらめない小さな王子さまは繰り返しました。 「『はかない』というのは、やがて消滅してしまうおそれのあるもののことを言うのじゃ」 「僕の花はやがて消滅してしまうおそれがあるのですか?」 「そのとおりじゃ」 「僕の花ははかないのか。彼女は周囲から自分を守るために4本のトゲしか持っていないんだ!それなのに僕は彼女を僕の惑星にたったひとりきりで残してきたんだ!」 このとき初めて後悔の念がわき上がってきました。しかし、彼は元気を取り戻しました。 「これからどこへ行けばよいか、僕に助言してくれませんか?」 彼はお願いしました。 「地球じゃな。評判のよいところじゃよ...」 地理学者は彼に向かって答えました。 そして、小さな王子さまは花のことを思い浮かべながら、その惑星を離れました。 <第16章> そのようなわけで、7番目に訪れた惑星は地球でした。 地球はどこにでもある惑星ではありません!そこには111人の王様がいて(もちろん黒人の王様も忘れてはいません)、7000人の地理学者、90万人の実業家、750万人の酒飲み、3億1100万人のうぬぼれ屋、つまりはおよそ20億人もの大人がいるのです。 地球の大きさについて理解しやすいように、電気が発明される以前のことを話したいと思います。街灯を管理するためには、六つの大陸で合わせて46万2511人もの大勢の街灯夫が必要だったのです。 その光景を少し離れたところから眺めると、まばゆいばかりに壮麗な印象を受けたことでしょう。無数の街灯が規則どおりに移り行く様子は、まさしくオペラ座のバレエのようでした。まずはニュージーランドとオーストラリアの街灯夫の出番がやって来ます。彼らは街灯に火を灯すと、そこで眠りにつくのでした。そうしたら次は中国とシベリアの街灯夫たちが踊り出し始める番です。それから彼らもまた舞台袖に下がります。その次にはロシアとインドの街灯夫の出番が回ってきます。さらにその次はアフリカとヨーロッパの街灯夫の出番です。その後は南米大陸、北米大陸へと出番が続いていきます。彼らは舞台に登場する順番を決して間違えることはありません。それは壮大な光景でした。 ただし、北極にひとつしかない街灯の街灯夫と、その同僚で南極にひとつしかない街灯の街灯夫だけは、怠惰で悠長な生活を送っていました。というのは、彼らは年に2回ほどしか働いていなかったのです。 <第17章> なにかしら気の利いたことを言おうと思えば、誰でも少しばかりウソをつくことがあります。街灯夫のことを話したとき、僕はあまり正直ではありませんでした。僕たちの惑星について、それを知らない人たちに間違った観念を与えてしまったおそれがあります。人間は地球の表面のほんのわずかを占めているにすぎません。地球上に住む20億人が一堂に会して、起立したまま密接に寄り合ったとすれば、全員が20マイル四方の広場にたやすく収まるのです。太平洋に浮かぶ最も小さな小島にだって、全人類を詰め込むことができるでしょう。 大人たちはもちろんそんなことは信じないでしょう。彼らは多くの土地を人間が占めていると思い込んでいるのです。そして、自分たちがバオバブのように重要な存在だと思っているのです。だから、彼らに計算してみるように勧めてあげてください。彼らは数字が大好きなのですから、きっと喜ぶことでしょう。しかし、そんなことで時間を無駄にしてはいけません。どうでもよいことなのですから。僕のことを信用してもらえればそれでよいのです。 小さな王子さまは地球上で誰にも出くわさないことに驚きました。彼は惑星を間違えてしまったのではないかと心配しましたが、そのとき、月の色をした環状のなにかが砂のなかでうごめきました。 「こんばんは」 小さな王子さまは念のために声をかけました。 「こんばんは」 ヘビが答えました。 「なんて名前の惑星の上に僕は落ちたのだろう?」 小さな王子さまは質問しました。 「地球だよ。アフリカさ」 ヘビは答えました。 「あぁ!...それで、地球上には誰もいないの?」 「ここは砂漠だぞ。砂漠には誰もいないんだ。地球は大きいからな」 ヘビは言いました。 小さな王子さまは石の上に座り、空に目を向けました。 「僕は思うんだけど、星がキラキラ輝いているのは、いつの日かみんなが自分の星を見つけるためなんじゃないかな」 小さな王子さまは言いました。 「僕の惑星を見てよ。ちょうど僕たちの真上にあるよ...でも、なんて遠いんだろう!」 「きれいな惑星だな。ここになにをしに来たんだ?」 「ある花とうまくいかなくてね」 小さな王子さまは言いました。 「そうなのか!」 ヘビは言いました。 そして、ふたりとも黙りました。 「人間はどこにいるの?砂漠はちょっとさみしいみたいだから...」 やがて小さな王子さまが再び話しかけました。 「人間たちのところにいても同じように孤独だぞ」 ヘビは言いました。 小さな王子さまは長いあいだヘビを見つめていました。 「君は変わった生き物だね。指のように細長くて...」 ようやく小さな王子さまはヘビに向かって言いました。 「だがな、おれは王様の指よりも力強いんだぞ」 ヘビは言いました。 小さな王子さまは少しだけ笑いました。 「君はあんまり力強くないよ...君には足だってないんだから...旅をすることだってできないよね...」 「おれはおまえを船でなんかよりもずっと遠くに連れて行ってやることができるんだぞ」 ヘビは言いました。 するとヘビは、まるで金のブレスレットのように、小さな王子さまのくるぶしのまわりに巻きつきました。 「おれが触れたやつは、そいつを生まれ故郷の土に還してやることができるんだぞ。でも、おまえは純情そうだし、他の星からやって来たんだったよな...」 ヘビはさらに言いました。 小さな王子さまはなにも答えませんでした。 「おまえを見ているとなんだか哀れに思えてくるよ。おまえはひ弱すぎるんだ、この岩だらけの地球の上では。自分の惑星が懐かしくなったら、そのときはおれが手助けしてやるぞ。おれには...」 「そうか!よく分かったよ。でも、どうして君はいつも謎めいた話し方をするの?」 小さな王子さまは言いました。 「おれがすべてを解決してやるさ」 そして、ふたりは黙ってしまいました。
by nakabiblio
| 2007-06-02 18:39
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