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星の王子さま(第6章〜第11章)
ANTOINE DE SAINT-EXUPÉRY
Le Petit Prince
星の王子さま
サン=テグジュペリ作
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<第6章>

そうか!王子さま、僕は君の物悲しい生活について少しずつ分かってきたよ。君には長いあいだ、夕日が沈むときの美しさくらいしか楽しみがなかったんだね。僕はこの新事実を4日目の早朝、君が僕に次のように言ったときに理解したんだよ。

「僕は夕日が沈むのがとても好きなんだ。日没を見に行こうよ...」
「でも、待たなくちゃいけないよ...」
「待つって、なにをさ?」
「太陽が沈むのをさ」

すぐに君はとても驚いた様子をして、それから一人で笑い出した。そして僕に言ったんだ。

「僕はいつだって自分の家にいると思ってしまうんだ!」

実際のところ、誰でも知っていることだけれど、アメリカが正午のときにフランスでは夕日が沈むんだよ。1分でフランスに行くことができれば、日没を見物することができる。残念なことに、フランスはとても遠すぎるんだ。でも、君の小さな惑星でなら、椅子を何歩分か移動させるだけで十分なんじゃないかな。だから君は望むがままに何度でも黄昏を眺めていられたんだね...

「いつだったか、僕は夕日が沈むのを44回も見たんだよ!」

そして、それから少し後になって君は付け加えたよね。

「ねぇ...とても悲しいときには、夕日が沈むのを眺めていたいものだよね...」
「44回も日没を眺めたその日、君はそんなに悲しかったの?」

しかし、小さな王子さまは答えませんでした。


<第7章>

5日目には、いつものように羊のおかげで、小さな王子さまの生活に関する秘密が明らかになりました。ずっと長いあいだ黙って考えていた問題の答えのように、彼は僕になんの前触れもなくぶっきらぼうに聞いてきたのです。

「羊のことだけど、低い木を食べるのなら、同じように花も食べるのかな?」
「羊は目に入ったものならなんでも食べるんだよ」
「トゲのついている花も?」
「そうだよ。トゲのついている花だって同じように食べてしまうよ」
「じゃあ、トゲはなんのためについているの?」

僕はそれについて知りませんでした。僕はそのとき、エンジン部分のきつく締まったボルトをはずそうとしていて、とても忙しかったのでした。故障が非常に深刻なものだと明らかになってきたのでとても心配でしたし、飲み水が尽きるという最悪の事態を恐れていたのです。

「トゲはなんのためについているの?」

小さな王子さまは、ひとたび疑問に思ったことは決してあきらめませんでした。僕はボルトのことでいらいらしていたので、いい加減に答えました。

「トゲなんてなんの役にも立ちやしないよ。それは花が意地悪するためにつけているだけなんだ!」
「なんだって!」

しかし、わずかな沈黙の後に、彼は恨みを込めた感じで僕に言い放ちました。

「僕にはそんなこと信じられないよ!花たちはか弱くて無邪気なんだ。そして、できるだけ安心していたいんだよ。花たちは自分にトゲがあるから、みんなが怖がると思っているんだよ...」

僕はなにも答えませんでした。そのとき、僕は次のようなことを考えていたのです。

「もしもこのボルトがはずれないままなら、ハンマーで吹っ飛ばしてやろう」

小さな王子さまは、またしても僕の考えを邪魔しました。

「君は信じているの、花たちが...」
「ちがう!ちがう!信じちゃいない!いい加減に答えたんだ。僕は重要なことで頭がいっぱいなんだ!」

彼は愕然として、僕を見ました。

「重要なことだって!」

手にはハンマー、油で黒ずんだ指、そして彼にはとても汚らしく思えていた物体の上に身をかがめている僕、彼はそれらを見ていました。

「君は大人たちのような話し方をするんだね!」

彼のこの一言によって、僕は少し気恥ずかしくなってしまいました。しかし、彼は容赦なく続けました。

「君はすべてを混同しているよ...君は全部をごちゃまぜにしているんだ!」

彼は本当にとても怒っていました。彼は黄金色の髪を風になびかせながら、

「真っ赤な顔をした男の人が住んでいる惑星を僕は知っているんだ。彼は花の匂いをかいだこともなければ、星を眺めたこともないんだよ。誰かを愛したことも決してない。彼は足し算以外には決してなにもしたことがないんだ。そして、君と同じように一日じゅう繰り返しているんだ、『おれは重要な人間なのだ!おれは重要な人間なのだ!』って。そして、そのことが彼を思い上がりでいっぱいにするんだよ。でも、そんなのは人間じゃない、キノコだよ」

「なんだって?」
「キノコだよ!」

そのとき小さな王子さまは怒りで完全に青ざめていました。

「花たちは何百年も前からトゲをつけているんだ。羊たちだって何百年も前からその花を食べ続けているんだ。だから、花たちが決してなんの役にも立たないトゲをなぜつけているのか、それを理解しようとするのは重要なことじゃないの?羊と花との争いは重要なことじゃないの?そのことは太った赤ら顔の男の人の足し算よりも重要でも大切でもないっていうの?僕の惑星以外にはどこにも存在しない、世界でたったひとつだけの花を僕が知っているとして、ある朝、小さな羊がなにも知らないままにたったの一口でその花を絶滅させることができるとしたら...そのことは重要じゃないっていうの!」

彼は真っ赤になって、続けて言いました。

「もしも誰かが、無数にある星々のなかでたったひとつの星にしか存在しない花を好きだとしたら、その人は星々を眺めるだけで十分に幸せになれるんだ。そして彼は思うんだよ、『僕の花はあの星々のどこかにあるんだ...』って。でも、もしも羊がその花を食べてしまったとしたら、その人にとってはすべての星々が突然消えてしまったようなものなんだよ!なのに、それが重要じゃないっていうの!」

彼はそれ以上なにも言えませんでした。そして突然泣きじゃくり始めました。すっかりと夜になっていました。僕は工具を手放しました。ハンマーやボルト、喉の渇きや死の危険について、僕はまったく気にならなくなっていました。ある星で、ある惑星で、僕の星で、地球で、小さな王子さまが慰めを必要としていたのです!僕は彼を腕のなかで受け止めました。僕は彼をなだめて、そして言いました。

「君の好きな花は危険にさらされてはいないよ...僕が君の羊のために口輪を描いてあげるよ...君の花のために囲いを描いてあげるよ...それから...」

それ以上なにを言えばよいか分かりませんでした。僕は自分がとても不器用だと感じました。どうすれば彼の心に手が届くのか、心を通じ合わせることができるのか、僕には分かりませんでした...本当に不思議なところです、涙の国は!


<第8章>

その花について、僕はすぐさま十分に理解するようになりました。小さな王子さまの惑星には、一重の花びらのついた素朴な花がこじんまりと、そしてひっそりといつも咲いていました。その花は朝になると草のあいだから顔を出し、そして夜になると再び姿を消すのでした。しかしある日、どこから運ばれてきたとも知れない植物の種が芽を出したのです。小さな王子さまは、他のどの植物の芽とも似ていない、その芽をとても近くで見守りました。それはバオバブの新種かもしれませんでした。しかし、その芽はすぐに成長をやめ、花を咲かせる準備を始めました。大きなつぼみが成長していく様子を目の当たりにした小さな王子さまは、そこから驚くような花が出現するのではないかと感じました。ところが、その花は緑色のつぼみのなかに隠れたままで、美しくなるための準備をなかなか終えませんでした。念入りに色彩を選び、花びらの一枚一枚をゆっくりと整えていたのです。ヒナゲシのようにしわくちゃなまま外に出て行きたくはありませんでしたし、美しさで輝きがいっぱいになるまで姿を見せたくはなかったのです。そう、その花はそれほどまでに魅力的だったのです!それゆえに、その神秘的な身繕いは何日も何日も続きました。そして、それからある朝のこと、太陽が昇るちょうどの時刻に、その花は姿を見せたのでした。

きちんとおめかしをして出てきた彼女はあくびをしながら言いました。

「あぁ!やっと目が覚めたわ...ごめんなさいね...まだ髪が乱れたままだわ...」

小さな王子さまは感動を抑えることができませんでした。

「あなたはなんて美しいんだろう!」

その花は穏やかに答えました。

「そうでしょう。わたしは太陽と一緒に生まれたんですもの...」

小さな王子さまは、彼女があまり謙虚ではなさそうなことに気づきましたが、それでも彼女はたいそう魅力的でした!

「朝食の時間だわ」

彼女は続けて言いました。

「あなた、なにか用意してくださらないかしら...」

小さな王子さまは戸惑いつつも、じょうろを探しに行くと、新鮮な水を汲んでその花に与えました。

かくして、彼女の少し気難しくて見栄っ張りな性格は、すぐに小さな王子さまを困らせることになりました。例えば、ある日、彼女が4本のトゲについて話していたとき、小さな王子さまに向かって言いました。

「鋭いツメを持ったトラたちがやって来るかもしれないわ」

小さな王子さまは言い返しました。

「僕の惑星にトラはいないよ。それにトラたちは草は食べないんだ」

その花は穏やかに答えました。

「わたしは草ではありませんわ」

「ごめんなさい...」
「わたしはトラなんて全然恐れていないわ。でも、風が恐いの。あなた、ついたてをお持ちでいらっしゃらないかしら?」

小さな王子さまは言いました。

「風が恐いだなんて...植物なのに、仕方がないなぁ。なんて厄介な花なんだろう...」

「夜になったらわたしにガラスをかぶせて下さいね。あなたの惑星はとても寒いんですもの。居心地が良くないわ。わたしが以前に住んでいたところなんて...」

ところが彼女はそう言いかけてやめました。彼女は種のかたちで被われたままやって来たのでした。他の世界のことを知っているはずがなかったのです。彼女は、見え透いた嘘をついてしまったことに気づいて恥ずかしくなり、咳払いを2、3回しました。

「ついたては?...」
「僕が探しに行こうとしたら、あなたが話しかけてきたんじゃないですか!」

すると彼女は、小さな王子さまに後悔させるために、無理に咳をしました。

こうして小さな王子さまは、好意を寄せてはいたものの、すぐに彼女を疑わしく思うようになりました。大したことのない言葉でさえも深刻に受け取るようになり、とても悲しい気持ちになったのでした。

ある日、彼は僕に打ち明けました。

「彼女の言うことを聞くべきじゃなかったんだ。花の言うことなんて聞く必要ないんだ。眺めて匂いをかぐだけでよかったんだ。花は僕の惑星を香りで満たしてくれたけど、僕はそれを喜べなかった。トラのツメの話だって、本当に僕をイライラさせたけど、きっと優しい気持ちになれたはずだったのに...」

彼は僕にさらに打ち明けました。

「僕は全然理解することができなかったんだ!言葉なんかじゃなくて、行いで判断すべきだったのに。彼女は僕を香りで満たしてくれて、晴れやかにしてくれた。僕は決して逃げ出すべきじゃなかったんだ!彼女の哀れなずる賢さの背後にあった優しさを見抜くべきだったんだよ。花はとても矛盾しているんだから!でも、僕は彼女を愛することを知るにはあまりにも若すぎたんだ」


<第9章>

彼は野生の渡り鳥を利用して脱出したのではないかと僕は思いました。出発の朝、彼は自分の惑星を整理しました。活火山の煤(すす)を念入りに払いました。彼の惑星には活火山がふたつあったのです。それは朝食を温めるのにとても便利でした。また、彼の惑星には死火山もひとつありました。しかし、彼は「噴火しないなんて言い切れない!」と思い、死火山も同じように掃除しました。それらの火山は、よく掃除されているならば、爆発することなくきちんと穏やかに燃えるのです。火山の噴火は暖炉の火のようなものです。もちろん地球上では、火山を掃除するには僕たちはあまりに小さすぎます。だから火山は僕たちをとても悩ませるのです。

小さな王子さまは、少し憂鬱になりながらも、最後のバオバブの芽も引っこ抜きました。彼は再び戻ってくることは決してないだろうと思っていました。その朝は慣れ親しんだ作業のすべてがとても彼の心にしみました。そして花に最後の水やりをし、ガラスの被いをかぶせようとしたとき、彼は自分が泣きたい気持ちになっていることに気づきました。

「さようなら」

彼はその花に向かって言いました。

しかし、彼女は彼に対してなにも答えませんでした。

「さようなら」

彼は繰り返して言いました。

その花は咳払いをしました。しかし、それは彼女が風邪を引いているせいではありませんでした。

「わたしがばかだったわ」

ついに彼女は彼に言いました。

「わたし、あなたにおわびしたいの。お幸せにね」

彼は彼女が自分をとがめないことに驚きました。彼はまったく戸惑ってしまって、ガラスの被いを持ったままその場に立ち尽くしました。その花が穏やかで落ち着いていることが、彼には理解できなかったのです。

「そう、わたしはあなたのことが好きよ」

その花は彼に向けて言いました。

「わたしのせいで、あなたはそのことを全然知らないのね。そんなこと、どうでもいいわね。でも、あなたもわたしと同じくらいばかだったのよ。お幸せにね...そのガラスはそのままにしておいてちょうだい。もう要らないから」

「でも風が...」

「そんなに大した風邪じゃないの...冷たい夜風は大丈夫よ。わたしは花なんだもの」

「でも動物が...」

「チョウチョと知り合いになりたかったら、毛虫の2、3匹は我慢しなくちゃならないわ。チョウチョはとても美しいらしいのよ。そうでもしなければ、誰がわたしのところに訪ねてくると思う?あなたは遠くへ行ってしまうのよ。大きな動物だって、わたしは全然恐くないわ。わたしにだってツメがあるんだから」

そして、彼女は4本のトゲを無邪気に見せました。それから彼女は続けて言いました。

「そんな風にぐずぐずしないで、イライラするわ。あなたは出発すると決めたんだから、どこへでも行きなさいよ」

彼女は泣くところを彼に見られたくなかったのです。本当に素直になれない花なのでした...


<第10章>

彼は惑星325、326、327、328、329そして330などがある一帯にたどり着きました。それから彼は、なにかしら用事を探したり学んだりするために、それらの惑星を訪れました。

最初に訪れた惑星にはひとりの王様が住んでいました。その王様は紫色の毛皮を身にまとい、簡素ながらもおごそかな玉座に着いていました。

「おぉ!そこにおるのは臣下の者か!」

小さな王子さまを見つけた王様は大声で叫びました。小さな王子さまは思いました。

「まだ会ったこともないのに、どうして僕のことを知っているのだろう!」

王様たちにとって世界はとても単純なものだということを彼は知りませんでした。すべての人々は臣下なのです。

「もっとよく見えるように近くへ来なさい」

ようやく臣下を持つことができるようになったと思って尊大になっていた王様は彼に向かって言いました。

小さな王子さまはどこに座ろうかと周囲を眺めましたが、その惑星は王様の豪華な毛皮のマントで完全にふさがっていました。彼は立ったままで、まるで疲れたかのようにあくびをしました。

「王の前であくびをするなどもってのほかである。そなたにあくびを禁ずる」
王様は彼に言いました。

「あくびが我慢できなかったのです。僕は長い旅をしてきて、寝ていないもので...」小さな王子さまは漠然として答えました。

「そうか、では余はそなたにあくびを命ずる。余は誰かがあくびをするのを何年間も目にしておらんのでな。あくびは余にとって興味深いのじゃ。さぁ!もう一度あくびをせよ。これは命令である」
王様は彼に言いました。

「びっくりしてしまって...もうできません...」

小さな王子さまは赤面してしまいました。

「なにっ!そうか! では...ではそなたに命ずる。あるときはあくびをし、あるときは...」

王様は少しだけ口ごもってしまい、気分を害したようでした。

というのは、王様がなによりも守りたかったのは、自分の権威が尊重されることだったのです。王様は不服従を受け入れませんでした。絶対君主だったのです。しかし、とても気の良い王様だったので、道理にかなった命令ばかりを下していました。

「もし余が将軍に対して海鳥に変身しろという命令を下して、その将軍が命令に従わなかったとしたら、それは将軍の落ち度にはなるまい」王様はいつもこのように言っていました。

「座ってもいいでしょうか?」小さな王子さまは遠慮がちに尋ねました。

「そなたに座ることを命ずる」
王様は毛皮のマントをおごそかに引き寄せながら答えました。

ところが、小さな王子さまは驚きました。その惑星はとても小さかったのです。王様はいったいなにを統治していたのでしょうか?

「王様...質問することを僕にお許し下さい...」彼は王様に言いました。
「余に質問することを命ずる」王様は即座に言いました。
「王様...王様はなにを統治していらっしゃるのですか?」

王様はとても簡潔に答えました。
「すべてじゃ」
「すべてですって?」

王様は控えめな手振りで自分の惑星とその他の惑星や星々を指し示しました。

「それらすべてをですか?」小さな王子さまは言いました。
「それらすべてをじゃ」王様は答えました。

なぜなら、王様はただの絶対君主ではなく、宇宙全体の君主なのでした。

「では、星々は王様に従っているのですか?」
「もちろんじゃ。星々は即座に命令に服する。余は不服従を認めない」

小さな王子さまは王様の権力に驚嘆させられました。もしもそれほどの権力を握っていたとすれば、1日のうちに44回ではなく、72回でも100回でも、あるいは200回でも、椅子を動かすことなく日没を見ることができたでしょう!そして、自分が見捨ててきた小さな惑星を思い出して少し悲しく感じていたので、彼は思い切って王様に力添えをお願いしてみました。

「僕は日没を見たいのですが...お願いします...太陽が沈むように命令をしてください...」

「余が将軍に対して、チョウチョのように花から別の花へ飛び移れと、または悲劇作品を書くようにと、あるいは海鳥に変身しろなどと命令したとして、もしも将軍がその命令を実行できなかったとしたら、過ちは余と将軍のどちらのうちにあるのかな?」

「それは王様です」小さな王子さまはきっぱりと言いました。

「そのとおりじゃ。各々の者ができる範囲のことを要求せねばならんのじゃ。権威とはまずもって道理の上に立脚しておる。もしもそなたが人々に海に飛び込むようにと命令したとしたら、そのときには革命が起こるかもしれん。余は、余の下す命令が理屈にかなっておるから、人々に服従を求める権利を有しておるのじゃ」

「それで、僕のお願いした夕日は?」
小さな王子さまは話を元に戻しました。彼はひとたび疑問に思ったことは決して忘れなかったのです。

「そなたの願い出た夕日は、じきに見ることができるであろう。余が命令を下そう。しかし、余の統治方針に従って、状況が整うまで待つことにしよう」

「それはいつになりそうですか?」小さな王子さまは尋ねました。

「ふむ!ふむ!」王様は分厚い暦を眺めながら答えました。
「ふむ!ふむ!それは...そうだな...だいたい...今夜の7時40分頃じゃ!その頃になれば余が命令を下したことがそなたに分かるぞ」

小さな王子さまはあくびをしました。日没を見たいというお願いが上手くいかないことに彼は後悔しました。それから彼は少し退屈してしまいました。

「僕はもうここではなにもすることがありません。出発します!」彼は王様に言いました。

「行ってはならんぞ」臣下ができたことでとても尊大になっていた王様は答えました。
「行ってはならん。余はそなたを大臣に任命する!」

「なんの大臣ですか?」
「ええと...法務大臣じゃ!」
「でも裁く相手なんていないじゃないですか!」
「それは分からんぞ。余はまだ余の王国を一巡したわけではないからな。余はとても歳を取っておるし、それに馬車を置く場所もない。だから、余は歩くのがつらいのじゃ」

「なんだ!でも僕はもう見ましたよ」
惑星の反対側を眺めるために身をかがめて、小さな王子さまは言いました。
「向こう側にはもう誰もいません」

「ならばそなたはそなた自身を裁くのじゃ」王様は彼に向かって答えました。
「それは最も難しいことじゃ。他人を裁くよりも自分自身を裁くことのほうがはるかに難しいからな。もしもそなたがそなた自身を上手く裁くことができたとしたら、それはそなたが真に立派な人間ということじゃ」

「僕はどこにいたって自分自身を裁くことができます。ここに住む必要はありません」小さな王子さまは答えました。

「ふむ!ふむ!」王様は言いました。「たしか余の惑星のどこかに年老いたネズミがいたはずじゃ。夜中にネズミの足音が聞こえたのでな。そなたはその年老いたネズミを裁くがよいぞ。ときにはそのネズミに死刑を宣告してもよい。だから、ネズミの命はそなたの裁き次第じゃ。しかし、いつでも恩赦を与えねばならんぞ。ネズミは一匹しかおらんのでな」

「僕は死刑を宣告したくはありません。それから、僕はもう出発しようと思います」小さな王子さまは答えました。

「ならんぞ」王様は言いました。

しかし、小さな王子さまは出発の準備を終えていたので、年老いた君主につらい思いをさせたくはありませんでした。

「もしも王様がきちんと命令に従わせることをお望みでしたら、道理にかなった命令を僕に下してください。例えば、1分以内に出発することを僕に命じて下さい。そのための状況は整っているように僕には思えるのですが...」

王様はなにも答えませんでした。小さな王子さまはため息をついて少し躊躇しましたが、出発する決心をしました。

「余はそなたを大使に任命する」王様は急いで大声で言いました。

王様は権威に満ちあふれている様子でした。

「大人って、とても変な人たちだ」
小さな王子さまは旅を続けながらそんなことを思いました。


<第11章>

二番目に訪れた惑星にはひとりのうぬぼれ屋が住んでいました。

「おぉ!おぉ!わしの崇拝者がやって来た!」
うぬぼれ屋は小さな王子さまに気づくや否や、遠くから大声で叫びました。

というのは、うぬぼれ屋たちにとって、すべての他人は崇拝者なのです。

「こんにちは。変わった帽子をお持ちですね」
小さな王子さまは言いました。

「それは挨拶を交わすためのものだよ。誰かがわしに喝采を送るときに、それに応えるための帽子なんだ。残念なことに誰もここを通らないけどね」

「へぇ、そうなんですか?」
小さな王子さまはよく理解できないままに言いました。

「手をたたいてごらんよ」
うぬぼれ屋は勧めました。

小さな王子さまは手をたたきました。するとうぬぼれ屋は帽子を持ち上げながら、慎み深く会釈をしました。

「これは王様のところへ訪ねたときよりも面白そうだ」

小さな王子さまは心のなかで思いました。そして、彼はもう一度手をたたきました。うぬぼれ屋は帽子を持ち上げ、再び会釈をしました。

小さな王子さまは同じような遊びを5分ほど繰り返し、飽き飽きしたところで尋ねました。

「帽子を脱いでもらうためにはなにをする必要があるのですか?」

しかし、それはうぬぼれ屋の耳には入りませんでした。うぬぼれ屋たちには褒め言葉以外は決して耳に入らないのです。

「君は本当にわしに敬服しているのかい?」
うぬぼれ屋は小さな王子さまに尋ねました。

「『敬服』ってどういう意味ですか?」

「『敬服』というのは、この惑星でわしが最も立派で、最も良い服装をしていて、一番のお金持ちで、それから最も知的だと認めるということを意味しているのだよ」

「でも、あなたの惑星にはあなたひとりしかいないじゃないですか!」

「頼むから敬服してわしを喜ばせておくれよ!」

「僕はあなたを敬服しますよ」
小さな王子さまは少しだけ肩をすくめながら言いました。
「でも、どうしてそんなことで喜ぶの?」

それから小さな王子さまはその惑星を後にしました。

「大人って、どう考えても変な人たちだ」
小さな王子さまは旅を続けながらそんなことを思いました。
by nakabiblio | 2007-06-02 18:37 | サン=テグジュペリ


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